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S&Sのオススメの書籍

Shoe Dog

SHOE DOG(シュードッグ)

レベル4 ★★★★

題名を日本語に訳すと「シューズ馬鹿」といったニュアンスで、ナイキの創業者であるフィル・ナイト氏が自ら執筆した伝記です。もちろんここでの馬鹿には、没頭して夢中になっている様子を表す愛すべきニュアンスが込められています。

今やシューズだけでなくスポーツ用品全般においてもナイキは世界最大のプレーヤーとなっていますが、創業は1960年代とアディダスやプーマといった欧州の大手はもちろん、アシックスといった日本のメーカーからもはるか後れを取っていたところからのスタートでした。それどころか、フィル・ナイト氏自身が起業するきかっけになったのは、アシックスの前進であったオニツカタイガーのシューズを日本で見て気に入り、米国の西海岸で販売代理店を任せてもらったところからでした。

その後、アシックスとは決裂してしまいますが、日商岩井が商品の調達だけでなく資金調達などファイナンス面を支えたことで、ナイキが世界的な企業に成長していくなど、ナイキは創業当初からずっと日本と深いかかわりを持っています。日商岩井への感謝の思いは本書でも度々出てきますし、ナイキの本社にある日本庭園には日商岩井という名前が冠されているほどです。

世界的な起業家の自伝というと超人的な才能を持った人物による成功譚というイメージを持つかもしれませんが、本書は全く違うテーストです。本書のほぼ全ての記述は創業前夜から1970年代におけるナイキの黎明期についてで、成り行きで起業することになったナイト氏があらゆるトラブルに見舞われ、のたうちながら一歩一歩前進してきたことが分かる迫真の記述には、こちらも創業前後のことが思い出されて胸が苦しくなるほどでした。

ナイト氏以外もナイキの創業メンバーは、異常な肥満漢や手紙魔、さらには車いすに乗った障害者など、通常の企業では異端とされる人ばかりです。そうした凸凹チームが今の世界的企業を作り上げた事には多くの読者が驚きを感じるでしょう。起業に関心がなくともビジネスパーソンが読めばほとんどの人に学びがある素晴らしい作品です。

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世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか

世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」 (光文社新書)

★★★

最近関心を持っているアートに関する本かと思って手に取ったのですが、内容は欧米のビジネスエリートがアートを鑑賞するなど美意識を鍛える背景についての説明です。著者は元々経営コンサルティング会社で働いていた方ですが、従来の経営コンサルティングの中心だった定量指標に基づいてロジカルな分析を行っていく、サイエンス的な経営は直近では陳腐化していて、起業経営においても美意識に代表されるような感性が重要になってきているというのが本書の一貫したメッセージです。

この主張を強調したいがために、経営コンサルティング会社の組織構造をオウム真理教に例えるなど一部の主張を受け入れられない人もいるでしょうが、基本的なメッセージには私も賛同です。ネットであらゆる情報が瞬時にシェアされて、ロジカルシンキングやフレームワーク分析に代表される経営コンサルティング会社のスキルは世の中に広く知られています。

加えて、データをもとにした分析もAIが発達する中で人間が行うことで高い付加価値を生み出すことはますます困難になっていくでしょう。実際に本書で主張されているトレンドを裏付けるように、マッキンゼーがデザイン会社を買収したり、Airbnbに代表されるようにデザイン専攻の創業者のスタートアップが大成功を収めたりと、ビジネスにおけるアート的な感性がインパクトを持つ事例も出てきています。

もちろん、サイエンス的な要素が一切必要なくなるわけではないですが、日本では未だにあまり意識されないビジネスにおけるアートを美しいと感じることに代表される美意識の重要性を分かりやすく説いています。

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勝ち過ぎた監督

勝ち過ぎた監督 駒大苫小牧 幻の三連覇

★★★

このブログで取り上げるのは初めてですが、高校野球を主題とした本です。高校野球後進国だった北海道で駒沢苫小牧を率いて、甲子園初勝利を上げてから夏の甲子園14連勝を成し遂げる離れ業を成し遂げた幸田監督が主人公です。

多くの高校野球ファンにとって、彗星のごとく現れて北海道勢初となる夏の甲子園の優勝を成し遂げ、その次の年には今やNYヤンキースの主力である田中将大投手を中心に2連覇、さらには3連覇がかかった夏の甲子園決勝で引き分け再試合となり、ハンカチ王子が居た早稲田実業に負けるという劇的なドラマは今でも心に強く残っていることでしょう。

ただ、このドラマを主導した幸田監督がなぜこの栄光の直後に退任したのか、栄光の陰にあったストーリーはほとんど知られていません。本書では、冬場の半年近く屋外での練習が困難であるというハンディを背負いながらも、駒苫をいかにして全国トップクラスの競合に育て上げたところから、栄光と直後に襲った不祥事、さらには電撃的な解任まで幸田監督の波乱万丈な歩みが詳細にまとめられています。

題材こそ高校野球ですが、ビジネスにおいても大いに参考になる栄光とその負の側面に彩られた波乱のストーリーです。常識破りの異才でなければ栄光は成し遂げられない反面、それを維持することも異才には困難であるというストーリーは、カリスマ創業者とその後の失墜を彷彿とさせます。本書を読んで思うのは、一度は創業した会社を追放されながらも不死鳥のごとくよみがえったスティーブ・ジョブズのように、幸田監督にもいつか高校野球の世界で命を燃やすような戦いにもう一度戻ってきてもらいたいということです。

高校野球に特に思い入れのない人にとっても、ビジネス全般に関心がある人には興味深い内容に仕上がっています。

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Airbnb Story

Airbnb Story 大胆なアイデアを生み、困難を乗り越え、超人気サービスをつくる方法

★★★★

日本では民泊と呼ばれる一般の住居を旅行者に貸し出すシェアリングサービスの世界最大手Airbnb(エアビーアンドビー)の創業物語です。日本では、ウーバーやエアビーが原則禁止されているために国内で生活しているとシェアリングビジネスのインパクトについては把握できませんが、世界中でもはや新たなインフラと呼べるほどの存在感となっています。

私たちもよほど特別な体験をさせてくれるホテルを除いて、外国を旅行するときはエアビーを使うようになっています。ホテルより圧倒的に安く、かつ住居なので広いスペースを使えることが魅力です。周りにレストランが多い都市部であれば食事をするにも困りませんし、デパートなどで買ってきたり、宅配を頼んだりすることもできてその日の気分で柔軟な旅ができます。

配車アプリの最大手であるウーバーの創業者トラヴィス・カラニックと違って、エアビーの創業者はあまりメディアで取り上げらないので、これまでプロフィールについては何も知りませんでしたが、デザインを学んだ2人とエンジニアというスタートアップの創業者としてはユニークなバックウラウンドのトリオです。

金融危機後の節約志向と、SNSの浸透によるオープンなマインドの若者を中心にエアビーは爆発的に普及して、創業からわずか8年で企業価値は300億ドル(約3.3兆円)を超えるところまで成長してきています。本書では、この超有望企業が上記のようにビジネスとは縁遠いバックグラウンドで、かつビジネス経験もほとんどなかった創業者たちにより、どのように成長してきたのか詳細にまとめられています。

本書を読んで感じるのはシリコンバレーのスタートアップを成長させる生態系の分厚さです。エアビーの創業者たちも倒産寸前のところから、世界で最も名高いスターターであるYコンビネーターのプログラムに参加したことが転機となって成長軌道に乗り、シェアリングサービスという新しい産業において急成長する中で生まれる様々な軋轢に対して、先輩起業家やベンチャー投資家からのアドバイスで切り抜けることが出来ました。

本書を読むと未だシェアリングサービスの利用自体を厳しく規制する日本政府の姿勢に暗澹たる気持ちにさせられます。既得権益との衝突がありながらも、消費者からの支持を背景に柔軟に制度設計をして有望ベンチャーを世界的な企業に成長させている米国のベンチャー産業と当局の凄みにしばらく米国経済の優位は揺るがないと感じさせられます。

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生涯投資家

生涯投資家

レベル3 ★★★★

10年ほど前にライブドアのホリエモンと並んで、日本の経済界を大きく揺るがせた村上ファンドの創業者である村上世彰氏の初めての自伝です。私が外資系のコンサルティング会社や金融会社を就職活動で回っているタイミングで村上氏はメディアで大きく取り上げられていて、さらに中学高校の先輩でもあるので、強く印象に残っています。

日本放送を巡るインサイダー取引で有罪判決を受けて村上ファンドが解散してからの10年間はほとんど活動がクローズアップされることはありませんでしたが、村上氏の娘さんが代表を務めるファンドがここ数年いくつかの会社で株主提案をしたことで再び注目を浴びました。

本書を読んで伝わってくることは、村上氏のコーポレートガバナンスに掛ける思いの強さです。そして、村上ファンドの活動が議論のきっかけとなって、日本でも株主に配慮する経営がこの10年でかなり意識されるようになり、ROEなどの定量指標にもそのことは表れてきています。

ただ、米国と比較したときのコーポレートガバナンスの充実度の差は、この10年でも埋まっていないどころか逆に開いているように感じます。村上氏が本書を執筆するきっかけになった娘さんのファンドへの納得感に欠ける強制捜査と、その後の娘さんを襲った悲劇には胸が締め付けられます。10年前の村上ファンドの裁判においても、既得権益を脅かされている日本の財界の感情的な反発の影響を色濃く感じましたし、その時の恐怖感が今でも財界や当局にも残っているからこその、見せしめ的な捜査としか考えられないでしょう。

そうした強い逆風を受けても村上氏とそのお子さんたちの、日本企業のコーポレートガバナンスを米国並みにしたいという情熱には頭が下がります。村上氏と同じくシンガポールをベースにする者としては、合理性に欠け未だに既得権益とそれを支える感情論が根強い日本のマーケットについての問題意識には強く共感できます。ただ、私自身は日本企業が今後ドラスティックに変革することについて国全体の存亡が揺るがされるようなガラポンしかないとほぼ諦めているのですが、あれだけの反発を受けても日本で活動し続けている村上ファミリーには驚嘆するほかありません。

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数学的な宇宙

数学的な宇宙 究極の実在の姿を求めて

★★★★

難しそうなタイトルの大著ですが、期待にたがわぬ骨太な大作です。著者は情報理論からのアプローチで宇宙の姿を解き明かす気鋭の物理学者です。現在はMITの教授を務めていますが、最新の宇宙理論について極力専門的な用語や記述を排して、分かりやすく解説してくれています。

これまでも私たちが暮らす宇宙は、多世界のうちの1つである可能性が高いという話は数多くの本で読んできましたが、本書ではそうした物理的な多世界のもっと根底には数学的構造が異なる多世界が広がっているという新たな仮説が展開されています。

ただ、その著者の最新の仮説に行きつくまでに、なぜこの宇宙は多数の宇宙の中の1つに過ぎないと多くの物理学者が考えているのか、量子力学や宇宙論の発展のプロセスを丹念に追いながら解説してあるので、素人にも議論の過程が追いやすくなっています。

普段、マーケットという短期的な事象を相手にしていると、本書のような宇宙論を読むと視野が広がってとても良い知的なリフレッシュとなるのですが、本書の最後で滔々と展開されている数学的構造の多世界理論はこれまで目にした宇宙論の中で最も壮大なフレームワークで、思わず息が深くなりました。

この仮説が裏付けられるような検証が生きている間になされるととても興奮するだろうなと楽しみにしています。

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アマゾノミクス

アマゾノミクス データ・サイエンティストはこう考える

★★

アマゾンの元チーフサイエンティストが書いたデータ分析の本ということで、AWSというクラウドサービスで世界一のシェアを誇り、データ分析でも世界の最先端を行っているアマゾンでの知見が数多く披露されていると思い読んでみましたが、肩透かしを喰らいました。

守秘義務が非常に厳しいアマゾンのことなので、紹介できない事例も多いのでしょうが、本書で紹介されているアマゾンでのデータ分析の内容は旧知のものがほとんどでした。また、著者は現在アマゾンをやめてアリババやゴールドマン・サックスなど様々な企業にデータ分析のコンサルティングサービスを提供する企業を運営していますが、そうした他社の事例についても守秘義務のためか目新しい事例に乏しかったです。

データ分析の最新事例ではなく、社会のあらゆる局面でデータ分析が用いられるようになってきていて、さらにビッグデータをアマゾンやグーグル、フェイスブックといった一部の企業が独占してしまっている状況をどのように個人にも裁量が働かせる健全な状況に戻せるのかという提言が本書の主眼となっています。

アマゾノミクスから、私と同じような期待を持って本書を手に取る人は多いでしょうし、著者の主張をよりダイレクトに想起させるタイトルが他にもあったのではないかと感じました。

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フェイスブック 不屈の未来戦略

フェイスブック 不屈の未来戦略 (T's BUSINESS DESIGN)

★★★★

フェイスブックの経営について書かれた本はあまたありますが、この本を際立たせているのは著者が経営幹部としてフェイスブックで長く働いた経験を持っていることです。ザッカーバーグやサンドバーグを始めフェイスブックを率いるリーダーたちを近くから見ていただけあって、フェイスブックのここまでの歩みについて迫真の描写が随所に展開されています。

世界の時価総額ランキングは、米国のテック企業が独占しています。その中でも本書で取り上げられているフェイスブックに、アップル、グーグル、マイクロソフト、アマゾンの5社は、事業規模でも技術的な先進度でも、さらには創業者のカリスマ性でも傑出していて、FAMGAと総称されています。

ただ、フェイスブックがこのように米国を代表するテック企業に登り詰めるまでには多くの紆余曲折がありました。今ではフェイスブックユーザに当たり前となっているニュースフィードも導入当初は強い反発にあいましたし、創業当初には今やほぼ姿を消してしまったマイスペースが先行していました。

上場直後にもモバイルシフトへの懸念が拡大して株価は半値以下にまで下がりましたし、ツイッターやスナップチャットという新興のSNSにとってかわられるという観測も定期的に浮上しました。しかし、ザッカーバーグを始めフェイスブックのリーダーたちはこれらの危機を見事に切り抜け、ワッツアップやインスタグラムという潜在競合も自社に取り込んでさらに成長させ、今や世界のデジタル広告市場をグーグルと2分するまでになっています。

本書ではなぜこのような成長をフェイスブックが成し遂げられたのか、当時の社内の声を多数引用しながら鮮やかに描かれ、まるで社内で自分が同じ成長を共有したかのようによく理解できます。フェイスブックを始め米国のテック企業に関心のある人はもちろん、業種を問わず起業や経営に興味がある人には必読の超オススメ本です。

 

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孫正義 300年王国への野望

孫正義 300年王国への野望

★★★★

3兆円でのアーム社の買収や10兆円ファンドの設立など、ますます活動のスケールが拡大しているソフトバンクの孫社長ですが、これまでにも彼の生い立ちやキャリアについての書籍は数多く出版されてきました。

このブログでもそうした書籍のいくつかを取り上げてきましたが、本書はその中でも傑出した出来栄えです。本書は孫社長のソフトバンク起業当初から現在までのビジネスマンとしてのキャリアを丹念に追っています。これまでの書籍は、孫社長の出自にフォーカスが当たったものが多かったですが、本書ではこれまであまり語られてこなかった創業当初の苦労話が数多く登場します。

今でこそ何兆円ものディールで世界を騒がせている孫社長ですが、創業当初は苦難の連続でその度に恩人が表れて何とか切り抜けていくエピソードの数々には同じ事業を営む者として勇気づけられました。世界に冠たる起業家となった今でもこの頃の恩人への感謝を忘れずに、必ず年1回は御礼をする場を設けているエピソードからも情に厚い孫社長の人柄が伝わってきます。

ニケシュ・アローラ氏への引継ぎやアーム買収の経緯、さらにはトランプ大統領との会談の誰も知らなかった舞台裏など、最新のトピックについても本人や周辺のコメント共に深く切り込まれています。創業期から直近に至るまでの超長期に渡ってこれほど孫社長に肉薄した筆者の取材力には感嘆するしかありません。

世の中から見れば極貧の幼少期から世界的な大富豪にまで上り詰めた超サクセスストーリーですが本人は全く満足していないことが分かります。多くのビジネスマンに前向きなパワーを与えてくれる力作ですから多くの人に手に取ってほしいと感じました。

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人工知能はどのようにして「名人」を超えたのか

  • 2017年2月24日 8:00 AM
  • ★★

人工知能はどのようにして 「名人」を超えたのか?―――最強の将棋AIポナンザの開発者が教える機械学習・深層学習・強化学習の本質

★★

人工知能が頭脳ゲームで人類最強を倒したというと、グーグルが開発したアルファ碁が昨年に韓国のトッププロを倒した囲碁が世界的な話題となりましたが、本書は将棋ソフトで最強であるポナンザ開発者の山本氏による著書です。

アルファ碁が一昨年末に欧州チャンピオンを倒し、昨年3月に韓国最強で世界トップクラスのイ・セドルを4勝1敗で倒し、さらに今年の頭にはオンライン上の対戦で人類トップクラスに対して60連勝するなど、囲碁についてはまだ10年以上かかるという見方が大勢であったところから、わずか1年半で人類を超えるところまで一気に進化しました。

将棋については囲碁ほど急速ではありませんでしたが、電王戦という形で5年ほど前からプロ棋士と将棋ソフトの対局が始まり、その中でもポナンザは全勝を守るなど、圧倒的な強さを示しています。本書では開発当初はアマチュアにも全く勝てないレベルから、10年以下で人間のトップクラスでもかなわないほどの強さまでに進化した過程を、メディアでもよく使われるようになってきた機械学習やディープラーニングといった人工知能に関する用語の解説も含めて、分かりやすくまとめられています。

著者にとって畑違いである囲碁の世界の人工知能についても、アルファ碁とイ・セドルとの戦いを中心に巻末での対談含めて色々な情報がちりばめられています。AIの最新事例について取り扱った書籍は、技術開発を主導している米国で書かれて、日本語に翻訳されているモノがほとんどです。本書は日本人が初学者向けに分かりやすく解説してくれた貴重な入門書ですから、囲碁や将棋ソフトを見て人工知能に関心を持った人はぜひ手に取ってください。

 

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データ分析の力

データ分析の力 因果関係に迫る思考法 (光文社新書)

レベル3 ★★★

ビッグデータという用語が数年前からあらゆるビジネス分野で頻繁に使われるようになっています。カメラやセンサーを多数積んだスマホが世界中に何十億台とばら撒かれたことで、画像データを中心として世の中のデータ量が爆発的に増えました。また、スマホの普及により種々のセンサーが量産効果で安くなり、データを処理するチップも高性能化、低消費電力化が進んだことで、IoTなどこれまでデータが取得していなかった分野でもリアルタイムでデータ収集できるようになりました。

要は世の中のデータ量が飛躍的に増えたことで、ビッグデータがキーワードになっているのですが、本書はその取得したデータを使って正しく分析を行い、意味のある結果を導く手法についての入門書です。世の中のデータ量が増える一方、分析のリテラシーが向上しているとはいいがたく、折角取得したデータを無駄にした事例はメディアでもよく見られます。

本書にもあるようにデータ分析は、おいしい寿司を握るのと同じで、新鮮なネタ(良質のデータ)だけでは不十分で、腕の良い職人が寿司というフォーマットにまで仕上げる(きちんとバイアスを取り除いた分析を行う)必要があります。

データ量という寿司ネタは世界中で様々な素材が手に入るようになった一方、腕の良い寿司職人の数は中々増えず、おいしいお寿司を出すお店は限られているという現状においても、データ分析と寿司の世界は共通しています。

本書は集中すれば数時間で、世の中にあふれている質の低いデータ分析の問題点と、良質なデータ分析を行う手法について理解できるように、コンパクトにまとまっています。タイトルは固いですが、データ分析のリテラシーの向上に資する良書ですから、幅広い層の人に読んでほしいと思います。

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大統領を操るバンカーたち

大統領を操るバンカーたち(上)──秘められた蜜月の100年大統領を操るバンカーたち(下)──秘められた蜜月の100年

レベル3 ★★★★

日本語のタイトルを見ると怪しげな陰謀論と思う人もいるかもしれませんが、上下巻で800ページにもなる大作で、20世紀初頭からリーマンショックとその後まで100年以上に渡るウォール街と時の政権との関係が詳細にまとめられた大著です。

本書は米国の政治と金融との関係がメインテーマですが、米国の金融史を一気通貫で学ぶ上でも非常に参考となります。米国は20世紀以降、1907年、1929年、1973年、2000年、2007年と5回の金融危機を経験していますが、その時のマーケットの状況がどうだったのか、そして当時の政権がどのように金融界と一体となって危機の収束に尽力したのかがよく分かります。

最初の1907年の金融危機の際には、ウォール街の最高神とも称されたJPモルガンが個人宅に金融界の重鎮を集めることで危機の収束にあたります。1929年の大恐慌は、上記の5回の金融危機の中でも最悪の金融危機であったため、何人もの大統領が問題解決に尽力するも、第二次大戦まで悪影響が尾を引いたことが、時系列でまとめられています。

本書を読むと、20世紀に2度の世界大戦を乗り越え、米国が世界の最強国に登り詰める過程において、いかにウォール街が大きな役割を果たしのかがひしひしと伝わってきます。ただ、時代とともに大統領たち政権メンバーと金融界の関係性は変容してきています。

上記のように20世紀前半の金融危機では大統領と金融界の重鎮との個人的関係が重きをなしていたのに対して、近年は米国の金融業は巨大な権力システムとなり、時の政権はなるべく金融界に自由にさせることのみにフォーカスするようになってきています。

そして、旧権力の打破を訴えてトランプ政権でも、ゴールドマン・サックスやPEファンドを中心とした金融出身のメンバーが経済閣僚の中枢を占め、この状況に拍車が掛かっているように見えます。リーマンショックを中心としたサブプライム危機により、米国を始め世界全体の経済が深く傷ついたにもかかわらず、禊もほとんどなくさらに力を強めている米国の金融業界が今後どのように変容していくのか、100年にわたる歴史を学ぶことで予見できることは多いでしょう。

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