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レベル3のアーカイブ

生涯投資家

生涯投資家

レベル3 ★★★★

10年ほど前にライブドアのホリエモンと並んで、日本の経済界を大きく揺るがせた村上ファンドの創業者である村上世彰氏の初めての自伝です。私が外資系のコンサルティング会社や金融会社を就職活動で回っているタイミングで村上氏はメディアで大きく取り上げられていて、さらに中学高校の先輩でもあるので、強く印象に残っています。

日本放送を巡るインサイダー取引で有罪判決を受けて村上ファンドが解散してからの10年間はほとんど活動がクローズアップされることはありませんでしたが、村上氏の娘さんが代表を務めるファンドがここ数年いくつかの会社で株主提案をしたことで再び注目を浴びました。

本書を読んで伝わってくることは、村上氏のコーポレートガバナンスに掛ける思いの強さです。そして、村上ファンドの活動が議論のきっかけとなって、日本でも株主に配慮する経営がこの10年でかなり意識されるようになり、ROEなどの定量指標にもそのことは表れてきています。

ただ、米国と比較したときのコーポレートガバナンスの充実度の差は、この10年でも埋まっていないどころか逆に開いているように感じます。村上氏が本書を執筆するきっかけになった娘さんのファンドへの納得感に欠ける強制捜査と、その後の娘さんを襲った悲劇には胸が締め付けられます。10年前の村上ファンドの裁判においても、既得権益を脅かされている日本の財界の感情的な反発の影響を色濃く感じましたし、その時の恐怖感が今でも財界や当局にも残っているからこその、見せしめ的な捜査としか考えられないでしょう。

そうした強い逆風を受けても村上氏とそのお子さんたちの、日本企業のコーポレートガバナンスを米国並みにしたいという情熱には頭が下がります。村上氏と同じくシンガポールをベースにする者としては、合理性に欠け未だに既得権益とそれを支える感情論が根強い日本のマーケットについての問題意識には強く共感できます。ただ、私自身は日本企業が今後ドラスティックに変革することについて国全体の存亡が揺るがされるようなガラポンしかないとほぼ諦めているのですが、あれだけの反発を受けても日本で活動し続けている村上ファミリーには驚嘆するほかありません。

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大統領を操るバンカーたち

大統領を操るバンカーたち(上)──秘められた蜜月の100年大統領を操るバンカーたち(下)──秘められた蜜月の100年

レベル3 ★★★★

日本語のタイトルを見ると怪しげな陰謀論と思う人もいるかもしれませんが、上下巻で800ページにもなる大作で、20世紀初頭からリーマンショックとその後まで100年以上に渡るウォール街と時の政権との関係が詳細にまとめられた大著です。

本書は米国の政治と金融との関係がメインテーマですが、米国の金融史を一気通貫で学ぶ上でも非常に参考となります。米国は20世紀以降、1907年、1929年、1973年、2000年、2007年と5回の金融危機を経験していますが、その時のマーケットの状況がどうだったのか、そして当時の政権がどのように金融界と一体となって危機の収束に尽力したのかがよく分かります。

最初の1907年の金融危機の際には、ウォール街の最高神とも称されたJPモルガンが個人宅に金融界の重鎮を集めることで危機の収束にあたります。1929年の大恐慌は、上記の5回の金融危機の中でも最悪の金融危機であったため、何人もの大統領が問題解決に尽力するも、第二次大戦まで悪影響が尾を引いたことが、時系列でまとめられています。

本書を読むと、20世紀に2度の世界大戦を乗り越え、米国が世界の最強国に登り詰める過程において、いかにウォール街が大きな役割を果たしのかがひしひしと伝わってきます。ただ、時代とともに大統領たち政権メンバーと金融界の関係性は変容してきています。

上記のように20世紀前半の金融危機では大統領と金融界の重鎮との個人的関係が重きをなしていたのに対して、近年は米国の金融業は巨大な権力システムとなり、時の政権はなるべく金融界に自由にさせることのみにフォーカスするようになってきています。

そして、旧権力の打破を訴えてトランプ政権でも、ゴールドマン・サックスやPEファンドを中心とした金融出身のメンバーが経済閣僚の中枢を占め、この状況に拍車が掛かっているように見えます。リーマンショックを中心としたサブプライム危機により、米国を始め世界全体の経済が深く傷ついたにもかかわらず、禊もほとんどなくさらに力を強めている米国の金融業界が今後どのように変容していくのか、100年にわたる歴史を学ぶことで予見できることは多いでしょう。

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巨大アートビジネスの裏側

巨大アートビジネスの裏側 誰がムンクの「叫び」を96億円で落札したのか (文春新書)

★★★

最近、お客さんからアートについて質問を受けることが増え、さらに海外のファミリーオフィスではアートの取り扱いは大きなビジネスの1つとなっているということで、まずはアートを取り巻く現状とビジネスのメカニズムについて知りたいと本書を手に取りました。

結論としては、期待通りにアートビジネスの大枠についてよく理解できました。著者は大手オークション会社であるサザビーズの日本法人の社長で、現在は独立してアートを取り扱うエージェントとして活躍しています。

長年にわたってアートに関わり、外部から見えづらい世界の奥の奥まで知っている著者だけあって、豊富なエピソードとともに現代のアートビジネスのダイナミックな側面を分かりやすく教えてくれます。個人的には、なぜここ10年で現代アートの価格が高騰したのか、50年前の印象派の興隆と対応させる形で理解できたことが最も大きな収穫でした。

欧米ではアートは完全にグローバルかつ巨大なビジネスとなっています。購入者として著名な人物たちも著名企業オーナーやファンドマネージャー、さらにはセレブリティなど社交界の大物たちが顔を揃えています。

ゾゾタウンの創業者である前澤さんが、バスキアの作品を62億円で購入したことで欧米のセレブリティの仲間入りをして、レオナルド・ディカプリオにコレクションを見せてもらうために彼の自宅を訪れたというエピソードをメディアに目をしましたが、本書をきっかけに欧米社会でのステップアップに必須のアートについての知見を深めたいと思います。

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ウォール街のイカロス

ウォール街のイカロス─小説ヘッジファンド

レベル3 ★★★

金融業界で長く活躍しながら、このブログでも紹介した名著「ヘッジホッグ」など金融ノンフィクションを残したバートン・ビッグスによる唯一の小説です。

モルガン・スタンレーに30年以上在籍し、さらにその後もヘッジファンドを立ち上げた著者だけあって、その作品はどれも金融業界に深い洞察を元に、特にマーケット関係者には深く心に突き刺さります。

黒人と白人のハーフというウォール街のマイノリティを主人公に据えた本作品も、ヘッジファンドを中心とした金融業界についてその面白さ、刺激性、そして残酷さということが良く伝わる、迫力ある内容となっています。

ただ、小説としての出来はあまり良いとはいえません。ITバブル前夜からリーマンショック後までが本書の舞台となりますが、時系列が前後することが多く、また登場人物の心情も伝わってこないこと場面も見られ、ストーリーがうまく流れていません。

結末もイカロスというタイトルから想像できるようにハッピーエンドではありませんが、もう少し救いがあっても良いと思いました。この著者の本質はやはりノンフィクションにあると感じました。

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国家とハイエナ

国家とハイエナ

レベル3 ★★★

経済小説の泰斗、黒木亮氏の最新作は国家と投資ファンドの攻防を描いた作品です。この小説の主人公のモチーフは、エリオットマネジメントのポール・シンガー氏ですが、彼は「世界で最も恐ろしい投資家」という異名で知られています。

長くバンカーとして活躍し、現在も世界最高の金融都市ロンドンで暮らしている著者だけあって、ハイエナファンドが新興国の債券を購入して、米国・英国での訴訟活動を駆使しながら、決して裕福でない新興国から巨額のリターンをどのように搾り取るのか、その手法が克明に描かれています。

本書の主人公であるサミュエル・ジェイコブスは、モチーフとなったポール・シンガー氏の実績をなぞるかのように、アフリカ諸国やアルゼンチンなど新興国からその圧倒的な法律についての知識と、グローバル大手ローファームのネットワークを活かして次々と巨額のリターンを得ていきます。

ただ、この小説を興味深くしていることは、強欲なファンドマネージャーだけでなく、その真逆の立場にあるファンドによる貧困国の搾取を禁じるために活動しているNPOや、ファンドの一社員など様々な立場から、この華麗な搾取劇を描いていることです。多様な立場の登場人物により、巨額のマネーが飛び交うグローバル金融市場の過酷さと、ある種のむなしさがうまく描かれています。

ロンドンやニューヨークといった金融都市を抱えている英国・米国の強みは、世界中の資金を自国に集めていることで裁判に勝ちさえすれば、すぐに自国にある訴訟先の金融資産を抑えて、リターンを確定できることです。

日本の投資ファンドには逆立ちしてもできない芸当であるだけに、本書を読むとアングロサクソンとユダヤ人が作り上げたグローバル金融のプラットフォームと、そのうえで勝ち続ける巨大ファンドの凄さがよく分かるでしょう。

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アルゴリズムが世界を支配する

アルゴリズムが世界を支配する (角川EPUB選書)

レベル3 ★★★

タイトルを見ると近年の人工知能ブームにあやかった本のように見えますが、本書の出版は4年前で時代を先取りしていたことが分かります。本書が興味深いのは、アルゴリズムがどのように世界を変えているのかテクノロジーの観点から分析しているだけでなく、その担い手であるエンジニアの動向にも焦点をあてていることです。

本書の前半はアルゴリズムによる自動化がいち早く取り入れられた金融業界にフォーカスしています。金融業界では40年以上前からコンピュータによる取引の自動化が行われていて、そこからテクノロジーの発展とともにどのようにアルゴリズムの活用が拡大してきたのか、金融業界の記述だけでも普通の本1冊に匹敵するほど詳細に紹介がされています。

しかし、リーマンショックによって、コンピュータサイエンスのエンジニアがウォール街を敬遠するようになって、グーグルやフェイスブックに代表されるシリコンバレーのテック企業を目指すようになり、これらの業界でどのようにアルゴリズムが活用され高度な分析が行われているかに話が進みます。

本書が出版されて4年が経過したことで、音声や画像の認識、さらには自然言語処理など高度なアルゴリズムはますます生活の中に浸透してきています。本書の内容と現状との差分を把握することで、今後のアルゴリズムの発展の方向性について、色々な手掛かりを与えてくれます。

 

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人工知能が金融を支配する日

人工知能が金融を支配する日

レベル3 ★★★

人工知能が第3次ブームを迎えて、メディアでもこのワードを見ない日はありませんが、金融業界においてもアルゴリズム取引の増加など人工知能の影響についても関心が高まっています。本書はタイトルだけ見るとキャッチーなタームをちりばめて、人工知能ブームに乗ろうとした本のようにも見えますが、内容はしっかりとしています。

著者は邦銀でトレーディングの一線に長くいた方なので、歴史的に金融業界が現在人工知能と呼ばれている様々なテクノロジーを利用してきたことについて精通していて、歴史的な経緯から最新の情勢まで詳しくまとめられています。

特に、米国のルネッサンス・テクノロジーズやブリッジウォーター・アソシエイツ、シタデルといった米国の巨大ヘッジファンドが、どのように最新の機械学習やディープラーニングに代表される人工知能分野のテクノロジーについて取り組んでいるのかの事例については私も知らないことがあり有用でした。

著者は本書の中で繰り返し、このままでは先行している上記のような米国の巨大ファンドが洗練された人工知能分野の金融テクノロジーを独占してしまい、日本を始めとした他国の金融機関や個人は搾取される一方になる可能性があることを指摘しています。

金融業の歴史が始まってから最も破壊力のあるテクノロジーと言える現在の人工知能に関わる技術が今後どのように金融業界、ひいては社会全体にインパクトを与えるのか、関心がある方は議論のスタートとして必要な知識がコンパクトにまとまった良書です。

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貨幣の新世界史

貨幣の「新」世界史――ハンムラビ法典からビットコインまで

レベル3 ★★★

貨幣についての世界史という大仰な邦題がついていますが、内容はそれに恥じない大作です。著者は投資銀行マンですが、リーマンショックによりお金の本質を知りたいという欲求にかられ、太古の歴史からお金と人類はどのように向き合ってきたのかについて調べ始めます。

投資銀行という激務の中よくぞこれだけ多彩な文献にあたり、必要であれば世界中の現場を訪れたと感動するほど、本書には紀元前の人類の歴史におけるお金のはたしてきた役割について、網羅的にまとめられています。人類の歴史だけでなく、貨幣というモノの本質は生物間の交換であるから、何十億年にわたる生命の発達についての記述まであります。

人類の歴史以外の記述は少しやり過ぎの感もありますが、著者のお金の本質に迫りたいという知的欲求がいかにすさまじいのかの表れでしょう。マイナス金利や異次元の金融緩和など、最近は人類が経験してこなかった未曾有の減少がお金の世界で起きていますが、その本質について深く理解するには、本書にまとめられているようなお金の歴史を知っておくことが不可欠でしょう。

一般的な経済書では決して学べない超長期的なお金の歩みが理解できる良書です。

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10億ドルを自力で稼いだ人は、何を考え、どう行動し、誰と仕事をしているのか

10億ドルを自力で稼いだ人は何を考え、どう行動し、誰と仕事をしているのか

レベル3 ★★★

ファミリーオフィスという富裕層向けのビジネスを営んでいますが、本書のような金持ち本を読むことはほとんどありません。ほとんどの金持ち本の著者よりも富裕層と接していると自負しているからですが、本書は大手監査法人PWCがビリオネア(10億ドル以上の個人資産を保有)100人以上にインタビュー・アンケートをして作成した書籍なので手に取りました。

米国の経済誌フォーブスの調査によると2016年初頭のタイミングで、世界には1,800人以上のビリオネアが居ます。本書では、その中から富を築いた手段が公明正大で、かつ相続ではなく自力で資産を築いた人物を120人選び出して、取材をしています。

世間のビリオネアのイメージを壊す事実が色々と紹介されていて、興味深い内容に仕上がっています。ビリオネアというとITで一発あてた若者というイメージが強いでしょう。しかし、ほとんどのビリオネアは30代以降に成功のきっかけをつかみ、幾度か事業に失敗した後に成功しています。また、ビリオネアも一般の人も将来予測の能力はほぼ同じで、では何が成功の要因であるのかといった分析も面白く読みました。日本人ではユニクロの柳井氏が取り上げられています。

ビリオネアとのインタビューでは1度も電話や部下によるメモの回覧などの邪魔が入らなかったことから、自分の時間の使い方を完全にコントロールして集中できるようにしていることなど、実際にビリオネアを取材したからこそ得られるエピソードもふんだんに盛り込まれています。一方、いくつかの分析結果は後付けの色が濃く、最終章のあなたの会社にも居るビリオネアマインドを持った人物の育て方も少し無理があると感じました。

グローバル資本主義時代の究極のエリートと言えるビリオネアに関心がある人には一読の価値がある書籍です。

https://newspicks.com/news/1535583/body/?ref=searchからの転載

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なぜ専門家の為替予測は外れるのか

なぜ専門家の為替予想は外れるのか

レベル3 ★★★

いやゆるFX本以外、為替についての書籍はあまりありませんが、本書は30年以上に渡って大手金融機関の一線で為替のトレーダーとして活躍してきた著者による本です。タイトルへの著者の回答は、「為替の相場の歴史が浅いから」というシンプルなものです。

数百年の価格推移の歴史がある株式や債券、不動産に対して、為替は本格的な変動相場に突入したのは1970年代以降の40年程であるという主張です。歴史が浅いために、PERやPBR、配当利回りのように定量的な割安・割高指標もあまりなく、トレーディングの一線でも勘に頼った取引が中心であるため、為替予測はそもそも困難だという主張には納得しました。

また、巷に出ている為替予測は、そもそも為替の本当のプロであるトレーダーからは全く参考にされていないということも繰り返し説明されています。著者はステートストリート銀行というカストディサービスで世界最大手の金融機関に努めていて、世界の大きな資金の流れを元にした社内の敏腕なクオンツ分析家たちによる予想の方がはるかに役立つという点にも納得です。

このようにプロですら、中々実態がつかめない為替の世界で個人投資家がレバレッジをかけて取引するFXの世界に絶対に足を踏み入れてはならないという著者の主張は、とても大切です。一部、ヘッジファンドのスキルをあまりに高く評価していたり、円キャリー取引の存在を否定したりと極端な主張もありますが、概ね個人投資家にも参考になる点が多い、為替についての貴重な好著といえるでしょう。

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世界の権力が寵愛した銀行

世界の権力者が寵愛した銀行 タックスヘイブンの秘密を暴露した行員の告白

レベル3 ★★

ここ数年で米国のIRS(内国歳入庁)を中心として情報開示が進み、鉄の結束の象徴だったスイスの銀行の情報秘匿は大きく崩れましたが、本書はその崩壊の象徴的な事件の1つを扱っています。

HSBCのシステムエンジニアであった本書の著者は、モナコで生まれ育ちフランス/イタリアの両方の国籍を持ち、HSBCのプライベートバンキングで働くというユニークなバックグラウンドを持っています。モナコでとんでない大富豪があふれている世界と、フランスやイタリアの一般庶民が多くいる世界のギャップを常に見ながら育った著者は、以前から銀行システムについて懐疑的な視点を持っていました。

その視点が、HSBCで働く中で富裕層たちが世界中のタックスヘイブンを通じて脱税していることをとらえた時に、著者はプライベートバンキングの個人情報を取得してそれをフランス政府に持ち込むという行動につながりました。著者が開示した情報を元に、欧州主要国で脱税を摘発する動きが広がっています。一方、スイス当局は自国最大の産業である銀行の信頼性を傷つけた許しがたい犯罪者として著者を追い続けています。

確かに、そのプロセスはエキサイティングですが、全般的に本書に対しては失望感を持ちました。その理由としては著者の主張にどうしても首をかしげざるを得ない部分が多いからです。著者の主張の矛盾や反論については、冒頭や巻末で海外投資の第一人者である橘玲さんが解説していて、この記述は大きな助けとなります。

また、タイトルに反して著者の行動は本当の世界の権力者を追い詰める効果は持ちませんでした。せいぜい、小金持ちの脱税を暴いたくらいです。同時に、本書を読むとプライベートバンキングとは犯罪行為の温床のように映りますが、その理解もまたとても偏っています。

より広範でバランスの取れた視点からの、プライベートバンキングとタックスヘイブンについての問題提起が望まれます。

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ウォール街のアルゴリズム戦争

ウォール街のアルゴリズム戦争

レベル3 ★★★★

以前にこのブログで紹介したマイケル・ルイスの「フラッシュ・ボーイズ」でその存在が広く世の中に知られるようになった超高速取引ですが、本書ではその実像にさらに深く切り込んでいます。著者はウォール・ストリート・ジャーナルで長く金融市場を担当していた人物で、前著にはこちらもこのブログで非常に高く評価した「クオンツ」があり、超高速取引の実態についてその黎明期からどのように発展してきたのかが詳細に解説されています。

「フラッシュ・ボーイズ」が超高速取引業者を顔の見えない悪者として、その悪者に対抗するブラッド・カツヤマを主人公に超高速取引業者を排除した新しい取引市場の設計という物語調の展開であったのに対して、本書はそもそも株式市場の電子取引を可能にしたプログラマーや、電子取引を高速化することで利益を得ようとしたヘッジファンドなど超高速取引業者という、超高速取引の担い手に焦点が当たっています。

金融関係者にとっては本書の方が「フラッシュ・ボーイズ」より読みごたえがあり、超高速取引の実像により迫ることができるでしょう。これまでほとんど取り上げられることのなかった、電子取引のプログラミングの天才ジョシュア・レヴィンが、現在の世界中の過半の取引所のシステムの基本設計を作り上げたというエピソードはとても印象的です。

「クオンツ」でも取り上げられた超高速取引で知られるルネッサンス・テクノロジーズやシタデルなどヘッジファンドに関する記述は著者の得意とするところだけあって詳細かつ迫力がありますし、これらファンドと比較してその実像がほとんど知られることのなかったゲッコーやバーチュといった超高速取引業者がどのように拡大してきたのかを知っておくことは、現在の金融市場の性質を理解する上で大変役立つでしょう。

本書の最後では機械学習など人工知能の技術も金融取引に動員されていることが紹介され、取引の超高速化、機械化がさらに進められていくだろうことが示されています。フラッシュクラッシュなどの急落や一般投資家との公平性などデメリットも目立ってきている超高速取引ですが、本書を通じてその理解が進み、より健全な形での発展につながるルール作りが行われることを期待しています。

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